私は夢を見た。
闇の中に舞い散るたくさんの桜の花びら。
とても綺麗で、でも何故か怖くて。
その花びらが全て散ってしまったら、私も一緒に消えてしまう気がした。
そして父様が出てくる。「お前は出来損ないだ、お前なんかいなければ良かった。」
連れ去られる方向とは対になった方角に、光があった。
私は必死に手を伸ばしたけれども届かなくて、
私は無性に泣いていた。



             


ラ  第一話 ユメ





「なあ陸遜〜」
現・呉の君主、孫策が居るのは何故か陸遜の部屋。
陸遜はまだ寝ている時間。孫策は陸遜の耳元に口を近づけ、こう囁いた。
「陸遜、起きろ!甘寧が周泰にヤられるぞ・・・!ああ、もうダメだ・・・陸遜!!」
もうちょっとマシな起こし方はないのだろうか。だが、陸遜には最も効果的な言葉だった。
「え!?本当ですか!!甘寧殿を犯すのは私です!!って・・・あれ?孫策様・・・?」
孫策は陸遜が反撃に甘寧を犯したいと思っている事を知っていた。
だから、陸遜にはこの言葉を使うのが効率的なのである。
「陸遜起きるの遅いな!何かあったのかぁ?」
「お、おはようございます。ですが今はまだ4時ですよ・・・?孫策様こそ、珍しくお早いですね。」
陸遜は「珍しく」を強調して言ってみたが、孫策はそれに気付いていなかった。
「今日はな〜ちょっと皆で行きたい所があるから一人ずつ誘いに来たんだずぇ〜!」
「それにしてもこんな朝早くなんて・・・そんなに遠い場所なんですか?」
陸遜の問いかけに、孫策はニヤリと笑った。
「今日は呉の武将皆で桜見ながら酒を飲もうと思ってな!!」

唐突な発言に陸遜は目をきょとんとした。
「ん?どーした??陸遜。下痢か?」
「いえ、全くもって違います。・・・というか今日・・・ですか?」
信じられない、といった感じで陸遜がした質問に孫策は皮肉な程笑顔で答えた。
「おう!!当ったり前だぜぇ!ほらほら、早く起きろ〜準備だ!」
「え・・・孫策様、今日行くと言ったのに準備してらっしゃらなかったんですか・・・!?」
「?おう、だってまだオヤジが許可してくれるか分かんねえもん」
いつもならば『馬鹿ですか貴方は!!』なんて言ってる陸遜だが、
相手はいくら馬鹿であろうと一国の君主。それを言ってしまったら斬首・・・なんて事も有りえる。
「(いくらなんでも斬首は避けたいですよね・・・)」

(でも、よく考えたら脳まで筋肉でできているコイツには通じないですよね。)

「何やってんですかアンタは!!そんなチンタラやってたら着くのがもう夜になるでしょうが!!」
「あ、そうだよな〜でも夜桜ってのもたまには良いんじゃねえの〜?」
「(良かった!通じなかった!!)夜桜ですか・・・?」
「ああ!とっても綺麗なんだぜぇ〜陸遜見たことないだろ?」
「ええ・・・」
おっと、と言いながら孫策は外に目をやった。
「いっけねえ!抜け出したのがバレて周瑜に叱られちまう!!じゃあな、準備しとけよ〜!」

・・・どうして朝抜け出して周瑜様に叱られるんだろう・・・まあいいか。


私はまた寝所に身を任せ、窓から外の景色を見つめた。
外には刹那の如く舞い散る桜の花びらでいっぱいだった。
民達の幸せそうな談笑が聞こえる。民が戦を忘れて過ごせる僅かな一時。
孫策様なら・・・いつか本当の民の笑顔を作れそうな気がする・・・。

「伯言、入っていいか?」
「興覇殿・・・?ええ、どうぞ・・・」
ひょこっと興覇は私の部屋に入り、そのまま私の寝台に腰掛けた。
「なあ、伯言。孫策さんからの話、お前も聞いたか?」
「ええ、興覇殿もですか?」
私は孫策様が武将皆に聞きまわっているところを想像してしまい、なんだか可笑しくなった。
「ああ、伯言も行くよな?」
「はい、もちろん。『夜桜』というものを見てみたいので。」
「何だ、伯言夜桜見たことないのか?」
甘寧の問いかけに、陸遜は少し哀しさを帯びた目で答えた。
「小さい頃は・・・夜になると家から出してもらえませんでしたし、いろいろと複雑な時だったので・・・」
このままでは暗い空気になってしまう!、
そう悟った甘寧はフォローをするように明るく言った。
「まあ、いいじゃねえか!!ってことは人生で初めて見る夜桜の相手が俺になるんだからよ」
明るい甘寧の発言に陸遜は嬉しくなって笑顔になった。

「・・・はい!夜桜、楽しみにしています。」
その一言に甘寧は安心し、陸遜の頭を撫でて言った。
「まだあの調子じゃ皆に伝わるのにしばらくかかるからよ、 伯言はまだ寝ときな。
途中で倒れたら台無しだからな・・・大丈夫。ちゃんと起こしに来てやるから」
「・・・はい、分かりました。ちゃんと起こしてくださいね・・・」

と言ったと共に早速陸遜は夢の中へと入ってしまった。
「疲れてるからな・・・夜桜を見て元気になってくれればいいけどよ・・・」
そう言って、甘寧は部屋を後にした。



私は夢を見た。
闇の中に舞い散るたくさんの桜の花びら。
とても綺麗で、でも何故か怖くて。
その花びらが全て散ってしまったら、私も一緒に消えてしまう気がした。
そして父様が出てくる。「お前は出来損ないだ、お前なんかいなければ良かった。」
連れ去られる方向とは対になった方角に、光があった。
私は必死に手を伸ばしたけれども届かなくて、

私は無性に泣いていた。




ラ  第一話 ユメ  了。





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性懲りもなくまた続きモノできましたぜ!兄ちゃん!!(何がだ)
コレまたエライ季節が遅れちゃったなあ。もう季節は夏に近づいてますぜ。
まあ、いいでしょ。気にしないでやってください。

今回のテーマは『シリアスっぽくないシリアス』。
でも気が変わったら完璧シリアス路線で突き進むかもです。
でもこれがもし完璧シリアスでいっちゃったらこの第一話のふざけが危なくなってしまう(苦笑)

2004/05/03 山本ハルカ








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