《3・ 穢れを知らぬ者》
昨日まで、皆で野球やってたのにな。
僕なんか、ちょうど一昨日に新しいゲームを徹夜でやりこんで、昨日は思うように野球ができなかった。
もしかして、もう二度と野球はできないの??ウソだよね??
そんなの嫌だよ。僕はまだ野球をやりたい。
今予選だっていいとこまで行ってるのに、もしかしたら本当に優勝できるかもしれないのに。
今回のプログラム、5人も生き残っちゃうでしょ。その5人は、確実に人を殺しちゃうよね。
そして他の優勝できないみんなは誰が生き残るのかも分からずに死んでいくよね。
でも僕、そっちの方がいいな。
生き残って、血の色と苦痛に歪む顔を覚えて辛く生きるよりも。
狂って、取り返しがつかなくなる前に消えてなくなりたい。
でもこのまま死ぬのって、何か嫌だ。それって負けじゃん。
こんなプログラムで勝つのも嫌だけど、負けるのも嫌だ。
まぁ僕なりに言えば、無駄死にするのは嫌だってこと。
みんな、どんどん狂っていっちゃうんでしょ。
一時間、一分、一秒ごとに。 血を見ることに慣れてゆく。
僕も少しずつ狂ってしまうのかなぁ??
親友とさえ思えた司馬くんまでもを殺したいって思っちゃうのかなぁ?
みんな、もう仲間を仲間と信じなくなるのかなぁ??
僕のことも、みんなはどんどん敵と思って、いつしか僕は孤独になるんだ。
そんなの嫌だ。僕はみんなのことが大好きなのに。
なら…まだみんながみんなを大好きと思ってる今、死なせればいい。
僕はみんなのことが大好きだから。 みんなの罪を僕が背負うから。
「じゃあ…早く殺してあげなきゃ」
支給された武器は名前も知らない銃。
説明書もついてあったけど、読む気はおこらなかった。
ちゃんと取り出しやすい位置に入れて、僕は歩き出す。
憎まれるのは、僕だけでいい。
***
「はぁ…少しつかれたかも…」
最初の方に教室を出た猫湖は誰にも会うことなく森の中をさまよっていた。
猫湖に支給された武器は『槍』と『毒薬入り水』。何かのミスで、二つ入っていた。
「使うことは多分ないけれど、これはちょっと運がいいかも…」
猫湖が神社で一息ついていると、ガサ、と草が揺れる音がした。
「誰!?」
「があああ」
そこから出てきたのは、3年の三象だった。
「三象先輩…一人なんですか…?」
三象は少し頬を赤らめながらコクコクと頷いた。
猫湖は少し、気付かれないぐらいに妖しく微笑んだ。
この毒薬を試すいいチャンスかも…。
「ぁ、あの、三象先輩」
「があ?」
そして猫湖は自分のバッグからペットボトルを一つ取り出した。
「これ…水こんなにいらないんで、先輩にあげます…」
「がああ!!」
三象はありがとう、といったカンジで(鹿目がいないと何言ってるかわからない)頭を下げ、早速ボトルのキャップを開けた。
そんな人を全く疑わない三象を見て、猫湖は少し心が痛んだ。
しかし三象は、ごくごくと毒薬が入った水を飲み干してしまった。
「ぁ…」
「があっ…があああああ!!!!!」
三象は叫びながら口を抑えた。口からは大量の血があふれ出ている。
「せんぱ…」
「があぁっ…ぁ…」
血の泡を噴きながら三象はバタリと倒れ、二度と起き上がることはなかった。
「ぁ…あ…ごめんなさい…」
そして猫湖は三象の死に焦って気付かなかった。背後から、自分も狙われていることに。
「ど…どうしよ…」
パァ…ン
「教えてあげようか?一緒に死ねばいいんだよ」
銃弾は頭に命中。猫湖はその場に座りこんだ。
その姿は、まるで三象に謝っているかのような光景だった。
「とま…ど…して…」
「どうせ5人以外は死んじゃうんだし。僕も後から逝くからさ…決めたんだ」
***
初めて人を殺した。普通に生きていれば見ることも無かった銃で、人を撃った。
反動が凄くて。血が噴水みたいに止まらなくて。
自分で選んだ選択肢なのに。 何故か。
怖かった。
少し、後悔もした。殺さなきゃ良かった、と。
そんなことを思っても、もう死んだ檜ちゃんは帰ってこないけど。
ガサッ
「!!誰だ!?」
僕はすぐに銃を構えたけど、既にもう人の気配はなかった。
「ま、いっか…」
しばらくは誰とも会いたくないし。会ったらきっとまた、殺しちゃうから。
猫湖のバッグから槍と毒入り水を取って自分のバッグに入れ、
次に三象のバッグをあさると、変な物があった。
「…制汗スプレー?これ超ハズレ武器じゃん。僕に当たらなくて良かった」
それでも後に役立つかもしれないから、一応バッグに入れた。
それと…檜ちゃんのタロットカード。
僕がみんなの意思を継ぐから。
みんなも無駄死にさせないけど、僕も無駄死にしたくない。
僕の命も、きっといつか役に立つ時が来ると思うから。
《三象 猫湖 死亡
残り 27名》
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