「おっおい、ちょっと・・・冥!!」
「何だよ」
「本当に行くのかって!?」
「お前が行きたいって言ったんだろ」
「そりゃそうだけど・・・本気にしなくても」
「さっさとついて来い、バカ猿」
わがままで、贅沢な。
あんな事言わなきゃ良かった。
俺がつい冗談で「幻の砂が見てみたい」なんて言ってしまったから。
あのクソ犬は
「じゃあ今から行くか。」
と、本気にしてしまった。
***そんな会話をしていたのは、今から2時間ほど前。
今、俺は冥と共に電車にゆらゆらと揺れながら、自分の選択した言葉に後悔している。
別に冥と出掛けることに抵抗があるわけじゃない。
むしろ、逆。かなり嬉しい。
ただ、一つ不安なことがあって。
冥って、本当に俺のこと好きなんかなぁ、と。
あの日、放課後の屋上で自分の気持ちを打ち明けたのは、俺から。
「俺は、お前が好きだ」って、シンプルに言い切った。
冥は、「じゃあ付き合うか」と、俺の告白にOKをくれた。
俺は、OKを貰っただけで、冥の気持ちを聞いてない。
つまり、冥は俺のことを好きなのか、分からない。
こんな事沢松になんて知られたら「贅沢な奴め」と俺を笑うだろう。
確かに冥と付き合うということ自体贅沢だが、もう少し欲張りたい。
冥の『愛』が・・・欲しい。
当の冥は俺のそんな気持ちも知らずにグースカと人の肩にもたれかかり、眠っていた。
「このクソ犬め・・・っ!!」
冥のせいで、俺は心も身体も身動きが取れないでいた。
「うっわ〜・・・すげぇ・・・」
「だろ?」
「何でこんな穴場知ってるんだよ?まさか他の奴と…」
頭に、冥のチョップをくらってしまった。
「バカか。そんなワケねぇだろ」
「じゃあ何で…」
「一人でいろいろお前と行きたい所探してたんだろうが!!」
「え?」
「いや、あの・・・それはだな・・・とりあえず・・・」
どんどん犬の声が口ごもっていく。
俺から見ても分かるぐらい、犬の顔は赤くなっていた。
「・・・・・・さっさと海岸に行くぞ!バカ猿め」
「・・・お、おう!!」
・・・・・・・俺の為に、いつも見てたのか?
海岸に着くと、まだ春なので人は少ない。
靴も脱いで、裸足でそこを駆け回る。
しばらくして俺と冥は砂場にしゃがんで、海を見つめていた。
「やっぱ幻か何か知らねぇけど――・・・ねぇな」
「・・・ああ」
「こんな所知り合いに見つかったらヤバイよな〜」
「・・・ああ」
「でもさ、今度皆連れてここに行こうぜ。夏休みとかに」
「・・・ああ」
俺が必死に冥と会話をしようとしているのに、冥はああ、としか返さなくて。
俺のこと、別にすきじゃないんだろ?
俺のことなんか、どうだっていいんだろ?
その気持ちは、自然に瞳から出ていった。
「お・・・っい、バカ猿・・・?」
ポロポロと、涙が止まらない。
「めっ・・・いは、おれのことなっんか・・・どうだってっいいんだろっ!?」
「おい、どうしたんだよバカ猿」
「べつにっ・・・おれのこと・・・すっ・・・きじゃないんっ・・・だろ??」
「おい・・・バカざ」
「いつもいつも俺一人バカみたいでさぁ!!俺一人で勝手に浮かれて…
お前に好かれてるだなんて勘違いしてっ…!!」
気付けば一人で走って逃げていた。
「バカ猿!!!!」
無我夢中に。とにかく冥から離れたくて。
「はぁっ・・・はぁ・・・」
どこへ行くのか分からないけど、とにかく走りまくった。
「いっ・・・てぇ・・・・・・」
裸足になんかならなきゃよかった。
走る度に鋭い石が刺さってくる。
俺が岩場に隠れたとき、俺の足は血だらけになっていた。
「あ〜あ、これしばらく野球できねぇな―――・・・」
血だらけの足を見ながら、俺はただ一人で笑っていた。
「コレ絶対監督に怒られるな〜子津にも・・・冥・・・にもっ・・・」
また、涙が溢れてくる。
「ひっく・・・『バカじゃねぇのか』・・・って、また・・・喧嘩するっんだよな・・・」
冥に愛されたくて、愛されたくて、仕方がない。
正真正銘の『愛』を、俺に下さい。
「っ・・・めいっ・・・」
「ここにいたのか・・・」
「冥!!」
俺の背後から冥が顔を出した。
「何で俺から逃げたんだよ・・・ったく」
冥の顔を見ると、沢山の汗をかいていた。
そんなになってまで、俺を探しにきてくれたのか?
「なあ・・・何でさっきあんなこと言ったんだ?」
冥は俺を岩場に座らせて、自分の着ていた上着で俺の足を止血している。
不意に見上げてくるその顔を見ると俺はドキドキしてしまって。
「・・・不安、だったんだ。」
「何が不安だったんだよ・・・」
また冥が俺のことを好きじゃない、と考えてしまうと、再び涙が出てしまいそうになる。
でも、こんなときにまた泣いてしまったら俺はズルイ奴だ。
「お前が・・・俺のことなんか好きじゃないって、ずっと不安だった」
「・・・・・・うん」
「いつもお前、俺に文句言うし、告白する前だって嫌われてるって思ってた」
「・・・・・・うん」
冥は俯きながらもちゃんと話を深々と聞いてくれていた。
「俺、お前からの気持ち聞いたことないし、」
「・・・・・・・・・うん」
「だから、俺って冥と付き合う意味ないのかなって・・・思ってたんだ」
「・・・バカ猿の言いたいことは、よく分かった。
でも、間違ってるところが沢山ある。」
「え・・・・・・?」
冥は、ポカンと開けた俺の唇に自分のそれを重ねた。
「めっ・・・」
「お前、気付いてなかったんだな。俺の気持ちに」
「へ?」
そして、俺は冥に抱きしめられた。
頬と当たる冥の胸から急速な心臓の音が聞こえてくる。
「聞こえるだろ?俺の心臓の音!!」
「・・・うん」
「お前と会う度、いつもこうだったんだよ!!学校でも、部活でも・・・」
「・・・ウソだろ?」
俺はぎゅっと抱きしめかえす。
冥の俺を抱きしめる力も、少し強くなった。
「ゴメンな・・・今まで言えなくて」
「め・・・い・・・」
「好きだよ」
「好きだ」
「・・・うんっ・・・」
「好きだ」
「めっ・・・いぃっ・・・」
「大好きだ、天国」
「・・・・・・ありが・・・とう・・・」
何度も、何度も。
言えなかった分を埋めるかのように冥は『愛』をくれた。
「おれも・・・冥がっ・・・大好き・・・」
「とりあえず・・・知ってるよ・・・」
次の日
「なーにやってんだこのバカ猿野!!」
「あははは〜スミマセンって」
当然の如く、俺は監督から怒られた。
「もーお前はしばらくマネージャー仕事を・・・いやイカン!!
コイツにさせたらろくな事にならん!!」
「監督。いっそ退部させればどうですか?いや、この際退学でも…プ」
また今日から、いつもの生活が始まって。
いつものように、部活が始まって、いつものように、冥がからかってきて。
「うっせーぞコゲ犬!!お前は保健所に連れて行くぞ!!!!」
「まずお前は動物園送りだろ」
「ウキーーー!!成敗してくれる!!!」
「いやうるせーよお前ら!!デートは他でやれ!!」
グラウンド整備をしていると、後ろからポンッと腰を叩かれた。
「兄ちゃ〜ん足大丈夫??」
「おう!全然平気だし!!」
そんな俺を見て、兎丸は笑い出す。
「何だよ?気持ち悪いぞ」
「兄ちゃん、何かイイことあったでしょ」
「へ・・・?」
「・・・あったんだね、良かったじゃん!!」
「・・・へっへーん!良かっただろ!!」
「コイツは平和ボケしてるから何もかもが幸せに感じる哀れな猿なんだ」
「黙らっしゃい!!!!」
贅沢かもしれない、この気持ちは。
お前とずーっと過ごす永遠もいいかもしれないけれど、
俺にはな、こういう毎日も、お前と同じくらい、好きなんだ。
でも、愛しているのはお前だけ。
猿野 天国、もうすぐ16歳。
俺は、犬飼 冥を、心から愛しています。
・・・・・・お前もそうだよな?
<やっと終わり>
犬猿が冷めないうちに・・・と書き上げたものです。
とはいいつつも冷めるつもりなど毛頭ありませんが。
余談ですが、私が犬猿を書くときは大体スピッツを聴いています。
というか、スピッツを聴いていないと、私は犬猿を書けません。(笑)
そして犬猿メインテーマはやっぱり「マシンガントーク」(by ポルノ)に決まりです!!
2005/5/5 時雨
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