「なぁ、別にムリしなくても」
「犬は黙ってろ!俺は作りたくて作ってるんだ。この名シェフの名にかけて…」


「馬鹿かお前は」










チェリー











事のハジマリは俺の一言からだった。


「何か最近デザート、みたいなの食ってねぇな」

俺が猿野の部屋でふと漏らした言葉を、奴は聞き逃していなかった。



「何お前、デザート食べたいの?」
「え?」

「俺が作ってやろうか?」



は?

「『は?』って何だよ、『は?』って!!」
「だってお前、デザートってか…料理できんの?」

妙に猿はあたふたしだす。
顔は真っ赤になりながら、ドンドンッと地団駄を踏んでいる。

「バッ…バーカ!!出来るに決まってんだろ!?俺は料理専門なんだよ!!」
「へぇ〜?料理”専門”…ね?」


正直言って、信じられるはずもなかった。
あんな大雑把で馬鹿な猿に料理が出来るはずない、と思っていたから。

「あ〜!!お前信じてねぇな!!!!今に見てろ…この後お前をビックリさせてやるからな!!」

「は?お、おい!猿…」





「今から1階の台所へは立ち入り禁止で〜す」











ご愁傷様。













と、いうわけで俺はかれこれ30分程猿の部屋で待たされている。
時々ガシャーンパリーンなどの豪快な音が聞こえてくる。

同時に、猿が大声をあげているのを聞いて、何だか嬉しくなった。


猿が、俺の為に頑張ってくれている。



こんな事で優越感を感じるのも変だが、
元から人…そして交際することもなかった俺だ。

「こんな事」でさえも、俺にとってはとても重大な出来事だった。



「でもいい加減とりあえずヒマだな…」
それに、眠たい。

俺は猿のベッドを借りて、少し眠ることにした。



夢の中の俺は、相変わらず野球をしている。
そして、笑いあっている。・・・・・・誰と?
俺は、相容れてはいけなく、対となった、天敵の猿、と笑いあっていた。

猿がいないと毎日が淡々としてて、単純すぎて、つまらない。

多分、猿に出逢わなかったら、つまらないということにさえも気付けなかっただろう。


猿とあのグラウンドで出逢って、俺は変わってしまったんだ。











「おぉーい!!できたぞ〜」


階段の下から元気な声で猿が叫ぶ。
おい、聞いてんのか〜?と続けて叫ばれた。


「聞いてる。だから叫ぶな、とりあえず」




慣れない階段をトントンと下りて、猿野の待つリビングへと急いだ。















「・・・・・・すっげぇ・・・・・」

「だろー?俺の得意なメニューだもん、作れて当然だし」

猿はどうだ、といった目で腕を組んでいる。

「見た目が良くても味が悪かったら何の意味もねぇよ」

「バーカ、俺が作ったんだからうまいに決まってんだろ」



何で猿の家にこんなものがあるのか、と尋ねたいぐらいに、
台所には沢山の専門器具が無造作に置いてあった。

猿が作ったのは、少しミニサイズのパフェと、イチゴが大量に乗せられているケーキ。
パフェをスプーンですくって、一口入れる。

丁度いい甘さで、これなら俺が毎日食べてもいいと言っていいほどに口に合う。



猿の、意外な特技を俺は見てしまった。

「ど、どうだ?うまい??」
頬を掻きながらはにかんで俺に寄って来る。
「んーとりあえず、かろうじて人が食べれるぐらいだな」

「はあああぁぁぁ!?ウソつけ!うまいに決まってんだろーが!!」

俺はウソだよと言いながら軽く猿の頭を叩いた。


「ウソ。・・・すっげぇうまい」
するとさっきまでは小麦色だった猿の顔色がいきなり赤く染まった。
「・・・・・・どうも。」







「猿。」

「・・・ん?」







ちゅ。
















「っうわあ!!何してんのお前!?」


「何って・・・お礼の気持ちを込めた、キスだよ。」

猿の顔はまるで林檎、いや、ニホンザルのように真っ赤だった。


「もっと違うお礼にしろ、バカ。」
「ダメ。俺はこのお礼しかあげません」

猿はやれやれといったかんじで溜息をついた。
「てか、もう1個デザート食いたいんだけど。」

「はぁ?もう作れるもんねぇよ」
「そこにあるじゃん」
「どこよ」


「 お ま え 」



「なーに調子に乗ってんだよ?」
猿は後ろを向き、ぶつぶつと俺に文句を言った。



でもな、そんな猿でも




「俺はお前がいるといつでも調子に乗れるんだよ」


後ろから抱きしめて優しくすれば、



「〜〜〜・・・しょうがねぇな」





真っ赤に染まった笑顔で、俺の方を向いてくれるんだ。





















俺は、猿の笑顔をずっと見ていたい。


―――たとえ、神がそれを許さなかったとしても。













「お前、いい嫁になれるぞ」

「調子に乗りすぎ」
















ダイスキだよ。




















<早く終われ>


HN変更して初めての小説です。
久々にミスフル小説書きました〜(汗)
いやぁ、またミスフルが再フィーバーしてきたんで…;;
管理人は犬猿至上主義です。
犬猿以外は書くつもりありません。

でも他設定で辰犬、芭犬、芭猿がある…かも…
妙に犬受けが多いのは気のせいです。



2005/5/4  遊来










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