貴方を愛したい。貴方を愛せない。
罪に囚われ、今も鳥は籠の中。
貴方なら、そんな鳥も簡単に籠から出せるでしょう。

私は弱いから、そんな事は、できない。








ラ  第六話 「もう一度、貴方を信じたい」



















―――私は逃げるように窓から外に飛び出た。
ただ甘寧を愛したいから、という一心に。












陸遜は全力で走っていた。そして甘寧も必死に追いかけていた。
しかし陸遜は今体力が落ちている。

今の甘寧にとって陸遜を捕まえるのは容易い事だった。




「っ・・・おいっ待てって!!」
「やっ・・・」

そしてやっと甘寧は陸遜の手首を掴み、陸遜は足を止めた。
今、この世界には2人しか存在していないと思わせる程、静かだった。


「おい、り・・・」
「私を殺しに来たのですか?」

陸遜は懐から護身用の手刀を手に取った。
「何を・・・」
「いくら貴方でも・・・許せません。私は今ここで貴方を殺します。」

陸遜の口元は微かに上がっていた。笑っているのだ。


―――今の言葉は、本当に陸遜の本心なのか?


ふと陸遜の目元に目をやると、陸遜の瞳からは涙が流れていた。

「陸遜・・・それは本当にお前が思っている事なのか?」
「あ・・・当たり前です!!私は貴方を殺すのです!!!」

俺に向けられていた剣の先は、震えていた。

「・・・じゃあやってみろよ、陸遜。俺を刺せよ。」
「えっ・・・・・・」
陸遜からすれば予想外だったのだろう。
思い切り目を見開いて困惑した表情で俺を見ている。
「じ・・・自分から死を願いますか!!罪を認めるのですね!!」

「罪なんてお前と出会う前から認めてたよ、陸遜。」
「っ・・・じゃあ貴方は分かってて私に近づいたのですか!?」


「好きになっちまったもんはしょうがねぇだろ?」


陸遜の息が荒い。そして更にぽろぽろと涙を流していた。

「なぁ・・・陸遜。確かに俺はお前の親父を殺して、お前と出逢った。
 知らず知らずに俺はお前を好きになってた。」
「っ・・・」
「俺、勘違いしてたんだな。お前はあの時の事を知ってて俺と過ごしてる、
 許されているって、勝手に思っていたよ。」
陸遜は、黙ったまま涙の流れる瞳をこすっていた。。

「でもさ・・・俺が陸遜を想う気持ちは変わらねぇよ。今までも・・・これからも。
 なぁ、陸遜。お前は俺のことをどう思ってたんだ?」
ザワッ・・・と木々の揺らめく音が止まず聞こえる。
陸遜は今も、剣を握り締めたまま。


「りくそ・・・」




「私だって・・・わたし・・・だって・・・・・・」

そう発しながら陸遜は走り出した。
「!?・・・おい!待てって!!」























陸遜を追いかけてしばらくすると、どこかの丘に着いた。
ある物の周りに―――・・・沢山の桜の木。


ある物とは、墓だった。



その丘から見渡す世界はとても綺麗で、何故か儚くて。
これが、『絶景』というのだろう。

「おい、陸遜・・・?」
「この墓、私がここに建てるように頼んだんです。」
陸遜は背を向けたまま、おれの方を向こうとしなかった。
「じゃあ、ここは・・・」

「私の・・・父の墓です。他人をここに連れて来たのは、貴方が初めてです」
「何で・・・俺なんかを」

そして陸遜はくるりと振り返った。
「貴方を・・・父様に紹介するために、と言ったら・・・笑いますか?」
陸遜は涙を溜めたまま。優しい、声だった。




「私は・・・どんなことがあっても、貴方が好きです。

  力強くて、優しくて、少し馬鹿ですけど・・・そんな『貴方』が好きでした。

    私は、いつまでも貴方のことを心より愛します。」





「陸遜・・・」


今度は墓のある方へと振り向き、そしてしゃがみこんで言った。


「父様・・・この人が私の人生で一番大好きな人です。
  許して・・・くれますよね?この人を永遠に愛しても・・・」


偶然か、それとも別のものか。
陸遜が言葉を言い終わった途端に桜が一斉に散った。
今まで、見たことも無いほどに美しかった。

「甘寧殿・・・」
「り・・・・・・・・・・!?」
いつもは恥ずかしがって何もしない陸遜が、自分から抱きつき唇を重ねた。
「これで・・・いいんですよね?」

「そんなのは、もういいよ。陸遜はこれから、前だけを見ていればいい。
  もう俺は・・・お前の傍から離れねぇから。」

そして陸遜は顔を上げ、本当に久しぶりに陸遜の満面の笑みを見ることができた。

「はい・・・!一生離れません!!」




























時が経ち、もう一つ大事なことを一年後に思い出す。

男として。陸遜を傷つけた者として。


陸遜を愛する者として、最後の弔いの言葉を。
























貴方を愛したい。今なら出来る。
鳥は自由を得、空を手に入れた。
貴方を信じれたから、手に入れることが出来た。

私は弱いけど、貴方がいるから・・・もう何も怖くない。


















ラ  第六話 了。
























何か、やっと山を越えました。
七話目で最終回です。それでようやく終わりです。
あとは陸遜と甘寧がいくところまでいっちゃえってカンジです。(何だソレ)


あと少しです。もうちょっとお付き合いください。


2005/05/15  時雨