ラ  第六話外伝「桜と舞う鳥に」



















何故私は逃げたかったのだろう。

・・・あのままとどまっていれば私は間違いなくあの人に頼ってしまっていたから。




何故私は甘寧殿に剣を向けてしまったんだろう。

違う。私は甘寧殿を試したくて剣を向けたんだ。
私に対する愛を、確かめるために。


貴方が私を愛している事ぐらい、分かっていましたよ。





人は刃を向けられると、隠された醜い部分を出すという。

甘寧は違った。  貴方にはそんなものはなかった。
でも貴方は優しいから、『俺だって醜いところはある』と言うでしょう。

そんな貴方が、本当に優しい。















あの時私が貴方から逃げた理由。

貴方を、変えたくなかった。


私といれば甘寧殿はどんどん貴方らしさを失ってしまう、そう思ったんです。

でも、そんな心配はいらなかったんですね。
貴方は、私が思っていたよりもはるかに心が強かった。
むしろ、弱かったのは私の方だった。

いつも何かに頼って逃げる。   私の悪い癖。
小さい頃の私はいつも父様に頼って逃げていました。
今思うと、何て情けない姿なんだろう。


でもそれは貴方に逢えたから、いいんです。
甘寧という存在に出逢って、初めて一人で逃げずに生きていこうと思えた。

だから父様に報告したかったんです。


もう大丈夫。愛する人がここにいるから、と。




今からは、私の弔いの言葉。




今まで身勝手で、我が侭ばかり言っていてごめんなさい。
私、知ってたんです。休日に軍務を休んでまで私と一緒に居てくれた事。

そのせいで、この惨劇に繋がったんですよね。
そして、私は帰るべき所をなくし、今まで生きてきました。
他の人に認められるまで、どれだけかかっただろう。

苦しかったです、もちろん。でもその分喜びもあった。
初めて人を好きになった。愛することができた。

私の、帰る居場所ができた。



私の帰る場所は、愛する人の所。
父様のおかげで、私は人として生きることができた。


本当に、本当にありがとう。

だから、もういいんです。
もう、休んでいいんですよ。


楽になって、天へと・・・向かってください。










甘寧殿から逃げているとき、頭の中に映像のようなものが流れてきました。
太陽が暖かく私たちを照らし、私たちはサクラの木に集う。
私と、甘寧殿と、そして父様の三人。
仲良く杯を交わし、まるで親子のように楽しんでいた。


でも、そんな事も一生無理だと現実で思い知り、

私は知らずに涙を流していた。


















父様、今までありがとう。


私は今、空を桜と舞う鳥になろう。














ラ  第六話外伝  了。