愛する者を守りきれなかった。
愛する者を安心させてやることができなかった。


まさか、今でもあの事で苦しんでいるなんて・・・気付かなかった。













ラ  第四話「決意」



















――何で陸遜があの事を知っているんだ?






あの後、部屋に戻った甘寧は悩み続けていた。
俺が陸遜の父を殺したのはもう何年も前の話。
陸遜は十にも満たなかった。普通なら、記憶に残れない程の昔。
やはり、それほどショックだったのだろう。

昔、俺は陸遜に一度だけ尋ねた。
陸遜の、父の、死因は、何だった、と。
すると陸遜は何も思い出せないんです、と苦笑してその後泣き出してしまった。




記憶にないが、無意識にある記憶。
矛盾しているようにも感じるが、このような現実があるのだろう。
陸遜の無意識にあるのは、おそらく父の死の真実。

思い出させたくなかった事を陸遜は思い出してしまった。
陸遜はこの事実を、どう受け止めるのだろうか。






俺は、変わらずに俺を愛してくれる、そんな淡い期待を抱いてしまった。





―――そんなにうまく事が運ぶだろうか?


・・・・・・分からない。これはあくまでも"期待"だから。


―――普通に考えてみろ。
     自分のたった一人の親を殺した野郎なんかといつまでも仲良くできるかよ。
     ・・・自惚れるのも大概にしろ。


・・・・・・・なら、伯言は俺を殺すか?


―――そう、とも言えないな。違うとも言えないが。
    でもあいつは愛した者を簡単に殺しにいく程馬鹿じゃないと思うぜ。
    むしろ、陸遜なら他の解決法を探すさ。


・・・・・・陸遜は強い。きっとそうするさ。


―――いつもの陸遜なら、の話だけどな。
    今の陸遜には『プライド』も『守るもの』も持ち合わせちゃいねェ。
    今のあいつにあるものは憎しみと、迷いだけだ。


・・・・・・そんな事はない!俺は―…陸遜を信じてる。


―――へぇ。たいそうな自身をお持ちで。せいぜい頑張るんだな。


・・・・・・あぁ・・・やってやるさ。










死因を尋ねた後に陸遜は言っていた。
まだ、父に向ける弔いの言葉が見つからない、と。
だから、陸遜は今こうして父の呪縛から抜け出せなくなっている気がする。
うまくいくか分からない。でも、賭けてみようか。
犯罪者の俺が、陸遜を救えるのか。
…きっとできる。






そう心に唱えながら俺は早足に陸遜の部屋に向かった。




陸遜を救う為なら、俺は命を捨てても構わない。

















なぁ、伯言の親父さん。聞こえるか?






俺は俺のやり方で、俺なりに考えた結果で、



アンタに弔いの言葉を贈ってやるよ。









だからな―――・・・



















これ以上、伯言を苦しめる原因を増やさないでくれ。








もう、伯言を泣かせたく・・・ないんだ。





















愛する者を守りたいと思った。
愛する者を安心させてやりたいと思った。
俺の命なんかいくらでも捧げてやるよ。


そうすることで、あいつが、幸せになれるなら。












ラ  第四話  了。























久しぶりにサクラ更新しました。
今回は甘寧視点で少し番外編気味なので、短いです。

というかもうこの話の存在を忘れてしまっている方が殆どでしょう・・・。
自分でも話のイメージを忘れかけてきています。(コラ)

私自身も少しずつ話を思い出しながら書き上げたいと思っていますので、
読んで下さっている方々、もう少しお付き合いください。




2005/05/11  時雨