ハジマリ









        戦が続いている中での呉の一日は意外と平凡なものであった。
        でも私はいつか呉の武将として戦場に立つため、日々訓練を続けていた。
        そんな私にいつも話し掛けてくるのが孫尚香だった。
    

        「ねえ陸遜、知ってた?」
        「何がですか?」
        「今日ね、新しい武将が寝返ってきたのよ」
        「ああ、甘寧という方ですね。その方がどうかしましたか?」
        「その人とね、さっきすれ違ったのよ。」
        「・・・で?」
        「最初どーでも良かったんだけどさあ、近くで見ると超かっこいいのよ!!」
        「あの・・・それを私に話す事で何か変わるのですか?」
        「だから・・・陸遜に協力してほしいのよ!!」
        つまり、私に尚香のキューピッドになれ、ということか。
        「ええ、別に構いませんけど・・・でもどうやってや」
        「ありがとう陸遜!じゃあよろしくね!!」
        私が尋ね終わる前に尚香は走り去ってしまった。
        「あの尚香に好きな人・・・か」
        尚香は昔から男勝りな性格で交際を求める男たちを片っ端から断っていった。
        理由は「男に興味ない」・・・男のプライドを壊してしまう台詞。
        そんな尚香がすれ違っただけで好きになった男性だ。
        多分美周郎と呼ばれた呉の大都督、周瑜にも劣らない程の人なのだろう。
        そんな事を 考えながら城の中を歩いていた。

        「あ、そうだ。呂蒙殿にこの書物を届けな」
        「どけどけどけえええぃ!!危ねえぞ!!」
        「あっ!?」
        仕事を思い出した途端に誰かとぶつかってしまい、手に持っていた書物がバラバラになって落ちてしまった。
        「ちょっ・・・危ないじゃないですか!!」
        ぶつかってきた男にそう怒鳴った。
        男は体がたくましく、私が憧れているそのものだった。
        でも頭には羽を装着し、上半身には龍の刺青があった。
        「あ、悪りい、でもちょっと急いでるんだ。またな!」
        「そんな・・・!」
        私にこの大量の書物を片付けろというのか。
        そしてこの床一面に散らばった書物を片付けるのに約10分ほどかかってしまった。
        このままでは呂蒙殿に怒られてしまう、そう思いながら急いで走りながら呂蒙殿の部屋へと向かった。

        「すみません、呂蒙殿。遅くなってしまいました」
        「おお陸遜、まあ良い。早く書物をもってきてくれ」
        はい、といい私は呂蒙殿に書物を渡すべく机に向かった。すると、何かが私の足元に当たった。
        そのせいで体制を崩し、私は転びそうになった。
        「うわっ・・・」
        また書物がばらばらになってしまう、そう思った。でも急に私の体が宙に浮いた。
        目を開けると、私はいわゆる「お姫様抱っこ」という状態になっていた。
        「危ねーな、気をつけろよ」
        「ありがとうございました・・・え?」
        そういえば誰だろう・・・?この部屋には呂蒙殿しか本来いないはず・・・
        「よくやった、もう少しで書物が落ちるところだったよ」 
        「あの呂蒙殿、この方は・・・」
        「ああそうだな、陸遜にはまだ紹介していなかったな。こいつは最近呉に寝返って来た、姓は甘、名は寧。字は興覇だ」
        「よろしくな、美人さんよ。しっかし驚いたなあ!
        呉にこんな美女がいたなんてよお。こいつが噂の「呉の絶世の美女」かい?」
        今、私が一番言われたくない台詞が聞こえたのは気のせいだろうか、・・・気のせいじゃない。
         この男は今私を女性とみている。私は無性に怒りが沸いてきた。
        「今貴方は私を「呉の絶世の美女」と言いましたね?」
        「そうだけど、それがどうかしたか?」
        「り、陸遜・・・怒るな・・・怒るんじゃないぞ・・・」
        「私は男です!勘違いしないで下さい!!」
        「この美女はうまい冗談を言うな!子明!・・・子明?」
         「またその事を口にしますか!?次言ったら私は貴方を燃やしますよ!!!」
        「げ!?子明こいつ男なのか??」
        「だからさっきからそう申しているでしょう!!」
        「まじかよ!?聞いてねえぜ」
        「私、帰らせていただきます!!」
        
        バタン!!という音と共に私は走って自分の部屋に戻った。
        あの男は最悪だ、この私を女性扱いするなんて。
        甘寧という男は初対面でいきなり嫌いな男ナンバー1になってしまった。
        「・・・ん?甘寧?」
        今日私にキューピッドの依頼をした尚香の「超かっこいい人」名前は甘寧っていってたような・・・。
        じゃあまさか、私の嫌いな甘寧と尚香の好きな甘寧は同一人物・・・・・
        「ねえ陸遜!」
        「は、はい?」
        「さっき甘寧と喋っちゃった!やっぱかっこいいわ、あの人。でも何か元気なかったのよねえ」
        「そ、そうですか」
        「ん?どうしたの?陸遜も元気ないわねえ・・・どうしたの?」
        「な、な、何でもありませんよ!ちょっと急いでいるのでまた後で・・・じゃあ!」
        「ちょっと陸遜!?」
        
        どうしよう。私尚香のためとはいえ嫌いな人と交流するなんてできない。
        しかもその人に燃やしますよ宣言もしちゃったし・・・とんだ大失態です。


        明日から一体私はどうすればいいのでしょうか。




       第一話・終わり。


       文章不足で申し訳ないです。でも続いてしまうので少しでも構って下ると嬉しいです・・・。



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