今日もまたうるさい猿のいる部活へ。
あいつがいると本っ当いらいらしてくる。あいつのことを考えてもいらいらする。
ま、どうせ今日も更衣室覗いて女に追っかけられてんだろ。
ププ、せいぜい牛尾キャプテンに 怒られてろ。







「あ、あの・・・犬飼くん・・・」
「ん?」

校舎の靴箱で靴に履き替えていると、見たことの無い女子が話し掛けてきた。
「とりあえず・・・誰?お前」
「あっ・・・1−Bの水口です。私、犬飼くんのことが・・・すきです」



あぁ、またコレか。こういう告白、嫌い。
手紙とかで告白されるなら、シカトすれば終われるけど。
直接告白されたら、直で返さなきゃいけないし。
この頃は俺を地獄の底までなんとかとかいう奴らがそういう女子を追い払ってくれてたけど。
この女子、どう抜け出してきたんだろうな。
「とりあえず・・・俺は・・・」


「お〜やっとコゲ犬はっけ〜ん!!キャプが探してたぜって・・・え?」

ナイスタイミングだバカ猿。




「えっ!あっいや・・・犬飼くん、返事は今度でいいから・・・」
「あ、あぁ・・・とりあえず・・・」
猿野の登場で動揺したのか、タタタタと女子は早足で駆け去っていった。
「もしかして今の・・・み、水口?」
水口?あ・・・たしか今の女子、そんな事言ってたな。
「あぁ、たしか。お前の知り合い?」
すると、猿野の肩ががっくりと崩れ落ちた。
「マジかよ〜俺あの子に告ろうと思ってたのに!!犬飼最悪!!」
「何でだよ・・・。とりあえず、告白とか何回目なんだ?」
誰かから聞いた。猿野は相当な告り魔だと・・・。
「え〜わっかんねぇな〜。多分15人ぐらいいってんじゃねぇの?」
「ふーーーーーん」




「てか、何でお前俺が告ってばっかって知ってんだ?」
「いや・・・まぁとりあえず。噂で。」
焦った。
いろいろ猿に関して情報集めてるだなんてばれたらもう俺野球やめるよ。
いや、ちょっとオーバーすぎたな。



「ふーん、まぁいいけど」
「とりあえず、お前あの女子がすきだったのか」
俺がそう言うと、猿は頭を抱えた。
「すきっていうか、まぁ告ろうとしたんだからそうかもしれねぇんだけど・・・
 な〜んか違うんだよな・・・」
「・・・?猿語は申し訳ありませんが、到底理解できません」
「キサマっ・・・いや。ん〜よく分かんねぇんだけどよ
 何か・・・誰かにヤキモチやかせたかったんだよ、多分」

これは猿語がどうこう言う場合ではなく、本当に意味が分からなかった。
「・・・あの、鳥居っていう女マネにか?」
すると、猿野は少し困ったような笑顔をみせた。


「・・・だったらまだマシだったけどな。どうも違うらしいぜ。
   俺、凪さんじゃない誰かにヤキモチやかせたかったんだよ。」
「それってとりあえず誰なんだ・・・?」
猿はニッコリとピースのサインをした。
「さぁなっ秘密♪んじゃ俺先行くな〜!!」
「お、おい・・・」
ユニホームを着た少年は、先に部室の方へと走って行ってしまった。



「とりあえず・・・」





とりあえず、ヤキモチなら俺が妬いてやるから、
他の奴のところなんか行っちまうなよ。





なんて猿に言ってしまったら、俺は鉄拳くらうだろうな。
俺は猿の後を追うように部室に向かって走りだした。


















カチャ・・・

部室のドアを開けると、そこには数名の部員がユニフォームに着替えていた。
「あ、犬飼くん。探しても見当たらなかったので先に行っていましたよ」
「悪いな。ちょっと用事があった。」
ちらりと目をやると、猿は一人で自分の荷物整理をしていた。
「る〜るる〜るるるる〜るる〜るるるる〜♪」
一人で徹○の部屋の歌を口ずさんでやがる・・・。どんだけ呑気だ。
「おい、さ・・・
「みんなーッ!ヤッホー!!!」
やや乱暴にドアが開かれ、兎丸と司馬が入ってきた。
「よォ、スバガキ!!今日も俺の勝ちだぜ♪」
「あーあ・・・僕の負けかぁ〜罰ゲームとか最悪!!」
自分で言い出したんだろ、と猿は兎丸にツッコミを入れていた。

猿と兎丸で行われているゲーム。それはとても単純なもので、
放課後になって先に部室に来た方の勝ち。
三回勝負。先に二回勝利した方が勝ちで、昨日も猿が勝ったらしい。

俺の盗み聞きの腕は誰にも負けないぜ。でも、とりあえず罰ゲームって、なんだ?

「んじゃ、泊まりはスバガキん家に決定な!!」
え?
「あ〜もうわかったよ・・・。ちぇっつまんないのォ〜」
嘘だろ?猿が兎丸ん家に泊まる・・・って寒ッ。
猿が思春期の男の家に行くなんて危険すぎる!!
だって猿は結構モテてるんだ、男に。
辰が『野球部に猿野くんを狙っている人がいる』って言ってたし。

「兄ちゃん今日は寝かさないからねvvゲームで・・・」
すると後ろから兎丸がガバッと猿に抱きついた。
猿はアハハと笑いながら反撃をしている。
兎丸も笑っていた。そして一瞬ちらりと俺を見た。


ニヤリ・・・






この妖しい微笑みには見覚えがある。
こんな笑みは・・・・・・5巻32ページ1コマ目以来だ・・・。












辰、分かったぞ。あの猿を狙っているバカが。

兎丸には負けねぇ・・・絶対に。