「何でなんだよ!」
甘寧は大きな声を出して、机を叩いた。
近くにいたのは呂蒙だったが呂蒙も何故か表情が芳しくはない。

「…だから…何で…あいつが…」
やりきれなく何時もと違って涙まじりのことばを吐く甘寧。
「…情けない声を、出すな…」
「お前…お前は何でそんなに平気で居られるんだよ…。おかしいぜ…」
呂蒙だって心中は穏やかではなかった。
一日中、家の中に閉じこもっていたい…そんな気分だったからだ。
でも、自分だけが悲しいことではない。陣営の誰しもが悲しく、辛いことだと思っていたため、
ことばにして表に出すことなんて出来なかった。
陣営内に脱力・無気力感が蔓延しては、軍として成り立たない。
辛いながらも自らの感情は表に出さずに伏せていた。
だから、憎まれ口をたたくのだ。
甘寧だってそれが分からないわけではない。
ここで悲しまなかったら、逝ってしまった者へどう接すればいいのかと思うからだ。
「俺が、俺が…あの時、あの現場に少しでも長く留まっていれば、あいつだって無事に戻ってこれた
のかもしれねぇのによ…。ハンっ、俺って何であんなに……」
珍しく弱気なことばを吐く。
陸遜のことばが脳裏に今でも焼きついて離れない。
そのことばが、責めるように幾度も幾度も甘寧の脳裏によみがえっては消えていくのである。


「すぐ、ここから引いてください!」
「何考えてんだよ。そんなこと出来るわけがねぇだろ!」
苦戦中の甘寧は援軍として来ていた陸遜に声を荒げていた。
将として、それは当然のことだった。
然し、このときの陸遜はその思いを遥かに越えていた。
「貴方は何を考えているのです!今の現状を見て、わかって物を言っているのですか!?」
「当たり前だろ!」
甘寧のことばに数秒間、俯き何かを考えたあと、不意に顔を上げ陸遜は真剣な眼差しで言った。
「なら、私も軍師として貴方に言わせていただきます。ここから一旦引いて体勢を整えてください」
「なっ…」
「軍の士気が低下しているのに気付かないんですか?
士気が失われれば、投降者も出てくることでしょう。被害を最小限に抑えるためには、
一旦引いて体勢を整える必要があります。
…士気が低いままでは、それは時として命取りになりかねませんから…。
将として軍の事を考えるのなら、一旦引いてください。
被害を抑えながら引くことも兵法の一つなのですから」
確かにその通りだった。
将とは言えども、所詮は一人。軍はそうはいかない、兵卒がいての将。
軍の士気さえ失えば、敗走だって考えられる。小雨が降る激戦区。
甘寧は仕方なく、大した反論も出来ないまま本陣へ一旦戻ることにしたのであった。
「…お前は?」
「貴方が引いたらすぐ引きます。このままではわが軍も持ちこたえられませんから。
さぁ、すぐに引いてください!」


いつも見せない表情…してやがった
背…伸び…しやがって…
本陣まで戻ると陸遜の言うとおり、士気はかなり下がっていた。
倒れこむ者、眠ってしまう者さえもいた。
あのままこの状態のまま戦っていたら、間違いなく死んでいた。
命はなかっただろうと、そう直感する甘寧。
死の淵から救ってくれたのはいつも傍にいた陸遜だった。

それなのに…それなのに…あいつは…
すぐ戻るって言ったじゃねぇか…よ…
甘寧が戻ってすぐ、一人の伝兵が本陣に転がり込んでくる。
そしてその伝兵が信じられないことばを発した。
「伝令!陸軍師、夏侯淵隊によって撃破されました!!」
「!」
「…っ!」
「消息を絶たれました!恐らく、討ち死にされた模様!」
甘寧も呂蒙も信じられなかった。
敵の偽伝兵かもしれんと半ば、半信半疑だった。
その後、適当に戦いながら陸遜の姿を戦場に探した
でも…何処にも見つからなかった
聞けば、あの時の伝兵は……伯言の護衛兵の一人
護衛兵が偽伝をするわけはないと確信した俺は、そのことを呂蒙に話した
俺が思っていた以上、呂蒙の驚きようは凄まじかった
俺が撃破されたんなら別として、あの可愛がっていたあいつ…が撃破されたんだから…

その時初めてあの伝令が本当だと思わざるを得なくなった呂蒙は、
がくりと膝を床に落とし、暫く無気力の様相を呈していた。
無理もない。今まで同僚以上としての存在として、呂蒙の傍らにいて、様々なことを成しえてきたのだから。
いつの間にか俯き、座り込んだまま、低い泣き声をあげていた。
そんな状態を見ながらも甘寧は、呂蒙に一言もことばをかけてやれなかった。
また、甘寧も同様だったからである。
雨の日が続けば続くほど思い出す...
俺はこれで本当によかったのかどうかってことを
後悔するんなら
あの現場にいて伯言を援護しながら帰ってくればよかったのではないかと灰色の空を見て思う

なぁ、伯言…
お前に…言えなかったことがあったんだよな
先の戦が終わったら言おうと思っていた…
それなのにお前が先に逝っちまうなんて
今まで、悪いことばっかりしてきたけどよ、こんなに自分の事以外で辛いなんて思うことなんてなかった
伝えたかったこと
お前の顔を見て言いたかったんだぜ...
先に逝っちまった所為で、もう言う機会がなくなっちまったじゃねぇかよ…
……どうしてくれるんだよ、…伯言
年の若いお前がさ、年配のジジイやらより先に逝っちまうなんて
そんな酷い話ってあるかよ…
お前だってさ、夢あったんだろう…な
これから先、俺は何を道標として生きていけばいいんだ...








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リク内容は私の大好きな「悲・恋&永遠の別れv」
いいですよねぇ…やっぱり悲恋大好きデス。
私もこんな小説が書けたらいいなぁと思います。

…にしても、やっぱり風流師様の小説はMO・E!!