相思の証










「わっ!」
「へへ〜捕まえた♪」
書簡を数本持って陸遜が、廊下を歩いていると背後から
甘寧に勢いよく首根っこ深くに抱きつかれた。
何か考え事をしていたらしく、後ろからの足音に気付かなかったようであ る。
「あれ、どうしたんですか、興覇どの?」
陸遜が振り返ろうとした正にその瞬間、甘寧の両手の力が緩んだかと思え ば、
無理矢理口に何かを流し込んだ。
「え?…んぐっ。けほけほ…」
「どうだ、美味いだろ?」
と言い私の顔を覗き込むように、にやりと含笑いを浮かべていました。

…っ。けほけほっ…。
この匂い…まさか、お酒ですか…?
何故わたしに…飲めないと分かっていて

「……苦っ、けほけほ」
「え〜。せっかくお前の為に注文してやったのに〜」
「私が飲めないことぐらい、分かっていらっしゃるのでしょう?分かって いて 何故…それを…っ」
まだ口の中に苦さが残っている。
喉の辺りが熱い…。体までもが火照りだした。
「熱…い…っ。…ぅ、何だか…眩暈が…」
「ここで倒れられたんじゃ話になんねぇなぁ〜」
と言いつつ何やら嬉しそうに、倒れかけた陸遜を抱え自室に戻る。
「う〜ん...」
少し意識がおぼろげになりかけている頃、首筋に生温かいものを感じる。
その感触はざらざらしていて、それでいて気持ちがよくて、
体はその感触に反応しながらも陸遜自身は、更に意識が飛びそうな気がし てし まっていた。
酒で火照っていた体に更に火をつけられたような感じでもあった。
「…あつ…い…。何だか気分が…う…ん...」
酒を一口、飲まされただけだというのに陸遜はぐったりしている。
何となくぼんやりしていて意識が消えそうで消えない最中、
体のとある部分に何かを巻きつけられる感触を覚え、陸遜が目をあけると …
「な、何をされるんですか…?」
少しばかり上目遣いをしながら、耳まで真っ赤になっていた陸遜が傍にい る甘 寧に話しかけた。
そう、当人が知らない間に手首には細い紐が巻きつけられていたのだ。
「へへ〜♪」
と笑ったまま、陸遜のことばに答えようとしない甘寧。
「これじゃあ…起き上がれ…な」
少し体を動かそうとするが、酒の所為で思うように動かないばかりか、
一気に流し込まれたのも影響してしまい、胸の鼓動もいくらか早くなって い た。
そのため、深くて早い吐息を繰り返す。

    胸が…苦しい… い、痛い…ぐ、具合まで悪くなってきて、しまったような……

余りの苦しそうな顔を見た甘寧は、
手首の紐はそのままに陸遜の体を半身起させ、自分に凭れかけさせた。
ほのかなぬくもりが服の上を通して、陸遜に伝わってくる。
でも今、それをしっかり確かめる余裕などない。
「ん…」
眉間に小さなしわをよせ、いかにも辛そうな表情をしていた。
その陸遜に追い討ちをかけるように、その耳元で甘寧は囁く。
「他のヤツに抱かれたいなんて言った罰だ」
「……さい、寂しくて…。つい寂しくて…」
酔ってはいたが、この事を聞かれると目を覚まし、潤ませ呟く。
「ごめん、なさい…。子明どのも、興覇どのも…忙しいと言われたまま、
寂しくて…誰も相手にしてくれなくて…だから、だから…。ぐずっ…」
潤ませていた目から、涙がひとしずく流れ落ちた。
「もう…、いいませんから…ですから...」
「どうしよっかな〜♪」
横目でちらりと嬉しそうに眺める甘寧。
「…な、何で、そんなに嬉しそうに…答えるのですか?」
甘寧はいつもはまったく感じない優越感にどっぷり浸かっていた。
だから、甘寧のことばがやたらと嬉しそうな声に聞こえたのだろう。
だが陸遜にしてみれば、今の環境は苦痛でしかない。
抜け出したい、逃げ出したい気分でいっぱいであった。
いつまで経っても紐を解いてくれない甘寧に、苛立ちと直感的な胸騒ぎを 覚え たのか陸遜は、
口許まで手首を持っていくと、垂れていた紐を口に含ませ、無理矢理引っ ぱ る。
「くっ…」
「あ、お、おい。ま、待てって。引っぱりすぎたら…」
二人の予想とは逆に、かた結びをされた状態で締め付けられていく状況下 だっ た。
ひっぱっていくと同時に、ほっそりとした手首に負担がかかっていくのか 痛み を感じ、
口に含ませていた紐を放した。
「っ…い」
「い、今はずしてやるから」
自分が招いたこととはいえ、さすがに耐え切れなくなったのだろう甘寧は 、
さっきの表情とはうって変わって必死になっている。
持っていた小刀でそっと傷つけないように細手首と紐との間に入れ、刃に 力を 込めた。

    ぱさ…

「ふ〜。何とかはずれたな〜大丈夫だった…!?」
甘寧が解いた紐に視線を何の気なしに向けた時、
その紐に何やら赤いものが滲んでいるのを見つけ、陸遜の細手首を思わず 持ち 上げる。
確かにそこには、じんわりと血がかすかに滲んでいたのである。
「おい、大丈夫か、伯言!」
「ん〜…」
未だ手首の痛みが残っていたのか目を閉じて、眉間にしわを寄せたままだ 。
心配になった甘寧は数回、陸遜の頬を軽く叩いた。
それでようやく目をあける陸遜。
「…ごめんなさい、もう、しませんから…」
呟くように、今にも消えそうな声で言った。
「伯言っ、すまねぇ。すまねぇよぉ〜」
今度は甘寧が泣きながら、優しく陸遜の小さな肩を抱く。
「え…何で泣いて…?」
明いているのか閉じているのか分からないぐらいのうっすらとした目で横 を向 き、
甘寧の背に問いかける陸遜。
「あのときのお前のことばが…気になって、心変わりしたんじゃねぇかっ て 思って、それで、
どうしてもお前の気持ちを確かめたくて、こんな痛いめに遭わせちまっ てよ …だから」
「いいえ、悪いのは…私の方なんです。こう…は、どのが悪いなんてない です …。
人ならば仕方のないこと…想う相手の気持ちを確かめたいと、
願うのは…いつのときも変わりませんから…」
「でもよ、でも…よ。こんなに滲んで痛かっただろうな」
陸遜の手首を取り、痛みを飛ばすように幾度も摩ってやる。
「大丈夫、ですよ。興覇どのの、お気持ちにすれば…私の痛みなど些細な 、も のですから」


甘寧の気持ちに気付いていればと悔やんだ陸遜の懐には、
赤く滲んだ紐がお守り代わりにいつも入っていた……






風流師様から頂いた「キリ番950自爆小説」ですvv
メルが来た時既にウハウハしていました。
やはりいいですねえv酒・縛り・・・萌え萌えです。
風流師様、ありがとうございました♪ 風流師様のサイトは→コチラ